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ひと知れず されど誇らかに書け

「シャイロックの子供たち」映画、そして原作本

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自分の作品が映画化される時には、全く関わらないという作家の方も多いと聞きます。自分の手から離れたら、それはもう別の作品だと。しかし、今回の映画、特に主人公について「池井戸先生が“こういう西木もあるんじゃないか”と意見をされたみたいで、自分に近い役を与えて下さった」阿部サダヲがインタビューに答えていたのを読んで俄然原作が気になり始めました。噂によれば、映画と原作のラストも違うらしい。となると、一刻も早く原作を読んでみたくなるじゃないですか!映画を観終わったその日に読み始めた原作、あっという間に翌日読了。

 

まずは映画の感想から。主演阿部サダヲ、主題歌エレファントカシマシという、私にとってダブル推し。お得すぎる。

三菱銀行にお勤めだった池井戸先生が最も得意とする銀行モノ。うちの祖父(元銀行員)の遺言が、銀行員にだけはなるな、だったそうですが、おじいちゃんの遺言を守って良かったよ…、と心の底から思いました。銀行、お金、おっかねぇ(震

ある銀行の支店でおきた現金紛失事件を描くミステリー。これに絡んでくる役者が全員濃い。台詞なんかもういらないんじゃない?顔が全て語ってるでしょ!という面々。特に柄本明VS橋爪功の絵面がたまりませんでした。これだけの役者が揃うと、観客の反応も明らかに良いのです。サダヲファンでもなく、玉森ファンでもなく、エレカシファンでもないであろう、明らかに池井戸作品ファンとお見受けする年配の方々の笑いや驚きが共鳴するかのように全体に広がるので、若干応援上映的な味わいがありました。池井戸作品らしいラストで「安定感!」となりながら聴くエレカシの主題歌は、宮本、天才か?とまたまた思うほどに映画と一体化していて素晴らしかったし、誇らしかった。登場人物全てに歌詞がじわじわと当てはまっていくのが凄い。すなわち生きる!宮本、主題歌上手。

yes. I. do

yes. I. do

 

そして問題の原作ですよ。

映画を観た人は読んだ方がいいし、原作しか知らない人は映画を観た方がいい!まず映画の登場人物たちのバックグラウンドがよくわかります。特に主人公西木が今の部署に配属されるまでの経緯は知っておいた方がより面白い。また、短編かと思わせておいて実は次々と交差していく人間関係。ページをめくる手が止まりません。そして噂以上に映画と全然違う結末!映画の脚本家、凄すぎる…。そして池井戸先生、脚本協力として参加しているそうです。納得!ひと作品で二度美味しいとは、嬉しい限り。原作が面白い場合、映画化され、しかも映画オリジナルの登場人物なんか出てきた日には、余計なことをしてくれたもんだ…、と怒りで震えることが多々ございますが、これは映画化大成功ではないでしょうか。むしろオリジナルキャストの柄本明が重要!

ぼくの小説の書き方を決定づけた記念碑的な一冊

と池井戸先生もコメントを出していますが、確かにこの作品を産み出して以降発表された作品のあらゆる要素がギュッと詰まっている感じがします。

不安定な要素の多い生活を送っている今、池井戸作品の持つ安定感が求められるのでは。それに応えるべく変化した映画のストーリーなのかもしれません。楽しませていただきました。

 

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