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ひと知れず されど誇らかに書け

映画「エゴイスト」、そして原作本を読んで

映画館で予告を観た時から、絶対観ようと決めていた。その時点では、純粋で単純な同性愛の恋愛映画だと思っていた。しかし、心に引っかかったのが、ほぼメイクなしの阿川佐和子の姿だった。鈴木亮平宮沢氷魚、長身の二人に挟まれ、小柄な阿川佐和子の存在感が、いつも以上に強く感じられた。とにかく阿川佐和子が気になった。

 

公開と同時に映画を観て、10日経つ。この映画への想いは強くなる一方だ。フライヤーに使われた写真は鈴木亮平宮沢氷魚の美しいキスシーン。実際映画の中でも、前半は二人が愛し合うシーンでいっぱいだ。鈴木亮平のゲイの男性としての仕草はとても自然。途中ある曲を歌うシーンがあるのだが、選曲が見事。中でも友人達と語り合う場面が特に好きだ。私もその仲間に入れて欲しい、Wの悲劇の話を一緒にしたい!と思った。そして宮沢氷魚の笑顔の美しさは、もはや常軌を逸している。予告からしてすでに、恋をしている人の、その恋が溢れてしまっている表情が美しすぎて儚かった。

 

まだこの原作を読んでいない、映画も観ていない方もこのブログを読むと仮定して、ネタバレはこの辺までにしておく。しかしこの「エゴイスト」という作品における母親という存在、これがどれほど大きな意味を持つか、なぜ阿川佐和子をキャスティングしたか。実に見事なキャスティングだったと思う。このことだけは書いておきたい。

 

映画と原作本の内容は多少の違いがある。しかし、原作において一番大事な言葉が、しっかりと映画で語られている。映画と原作に共通しているそのいくつかの台詞、これこそが「エゴイスト」の根幹である。特に阿川佐和子演じる母の言葉に私は赤線を引いておきたい。

 

エゴ=悪であると思って生きてきた、私。この映画、そして原作本を読んで、その当たり前だと思っていたイコールが私の中で崩れた。これが崩れることってあるんだ、と驚いている。原作者の高山真氏が、もうこの世にいないことが悔やまれてならない。この映画の感想をぜひ聞いてみたかった。繊細で誠実で知性ある文章を書く人だ。そして、文庫のあとがきの鈴木亮平の文章もまた、知性があり、誠実そのものである。

 

映画も原作もどちらも強く強くおすすめしたい。

映画『エゴイスト』オフィシャルサイト 2023年2/10公開