アイツと、読書と、音楽と

ひと知れず されど誇らかに書け

「伝える準備」藤井貴彦

私が一番印象に残っているのは、ある「声」だ。神田沙也加さんの悲しい出来事の際、火葬場で神田正輝松田聖子の二人がカメラの前に姿をあらわすという驚くべき情報が入り、その後画面が切り替わり、両親が愛娘のお骨を抱いて報道陣の前に立った。その瞬間、声にならない声を発したのが藤井貴彦アナだった。アナウンサーとしてではなく、一人の人間として、こんなに辛い状況でも、大事な娘を守るためカメラの前に立つという二人の決意を目の当たりにして思わず出してしまった声。この人間らしさがむしろ、信頼に値するアナウンサーだと思った。

 

コロナ禍での長期テレワークの際に、唯一観ていた報道番組がnews every.だった。コロナ禍の始まりは恐怖でしかなかった。特に志村けんが亡くなった時の驚きとショックの大きさは、そのままコロナに対する恐怖心に繋がった。(今でもコロナに対して油断しそうになると、志村けんを思い出せ、と自分に注意を促しているほどに。)

報道番組を観ては震え、しかし情報をシャットアウトするのも不安。そんな中、言葉を選び、直接画面の向こう側の私達に語りかける藤井アナの姿勢には、情報を正しく伝える者としての気概を感じた。恐怖だけではなく、どうやって日々の生活を繋いでいけばいいのかを冷静に考えることができた。

私が手に取ったこの本、第1刷が2021年7月20日、第3刷が2021年9月15日となっている。版を重ねるのが早かったということは、それだけ私と同じようにコロナ禍での藤井アナの伝え方に興味を持った人が多かったのだろう。

 

「伝える準備」は私たちが生活の中で実践できる工夫や準備、特に日記を書くことについて、すぐに真似したくなるポイントが数多く書かれている。匿名で軽々しく活字を世界に発信できてしまう特異な時代、言葉は有名人だけが責任を負うものではない。

手元にある安易な言葉で、ご自分を包まないように。発する言葉で自分をつくる意識が、今の時代だからこそ大切なのだと思います。

言葉を選ぶということは、自分を育てることにもつながる。出来るだけ言葉を大切に生きていきたい。