アイツと、読書と、音楽と

ひと知れず されど誇らかに書け

「もう死んでいる十二人の女たちと」パク・ソルメ

平坦な道を歩いているつもりが、いつの間にか逸れ、思わぬところで躓く。
歩くリズムが狂い始め、見知らぬ路地へと迷い込んでしまう。
パク・ソルメの短編集は、奇妙なリズムを刻む。
始まりの「そのとき俺が何て言ったか」で起きる唐突な暴力。
「海満」という架空の島。
「じゃあ、何を歌うんだ」歌からのアプローチによる光州事件
東日本大震災原発事故についても語られる。『ソウルのすべての日本料理店は本当に観光の絵葉書みたいで、そういう場所が実際にあることは明らかだが、遠くかすんでいるばかり』日本人では浮かばない表現ではなかろうか。

あり得ない人物、架空の島等が次々に現れては消える。
エンタメやファンタジーとはならない妙な実在感は、パク・ソルメ自身が重点を置くという背景・場所・場面によるものだろうか。
いや、それよりもなお敢えて崩された文体であるのに関わらず、物語の流れが滞らないことに私は実態のあるものを感じる。

 

海外文学をこれまで以上に読んでみようと思っている。
原書で読むことができたらどんなにいいかしらと思っているが、まず語学からなどと思っていると人生が終わってしまうので、ありがたく翻訳されたものを読む。
今作品の訳は斎藤真理子氏。書店で韓国文学の棚に行けば、一番多く見る名前。
この不思議なリズムの作品についても、とても詳しく解説を載せてくれている。

どんどん新しい文学は生まれている。
世界はそれほど悪いことばかりおきているわけではない。生命力のある文学に触れていきたい。